「じゃあ・・・また。」
歯切れの悪い挨拶に少し気まずい雰囲気だったのは、きっとまだ喋り足りなかったからだろうか。
熱帯夜という言葉がぴったり。京都鴨川のほとりで、僕と僕の姉は別れた。
4歳も離れた姉弟の割に、仲は良い方だと思う。
天邪鬼な性格。他人の気持ちを考えすぎて言い淀む癖。夢見がち。あと、顔。
最後のは、他人から見ると一目瞭然らしい事は、ちょっと照れ臭い。
図らずも似た姉弟は、大人になるにつれ、より一層互いを深く信頼するようになっていった。
「今夜、食事しませんか?」
そう連絡したのは僕の方だった。
「いいねー!ダラダラ色々と喋れたら嬉しいから、大喜と私の二人がいいなぁ(笑)」
姉ちゃんが自分の店を構えてから、もう何年経つだろう。お互い忙しくて「ゆっくり二人で」なんて、何年ぶりだろう。
僕が大学生の頃は、まだ実家にいたのもあって、語り合う時間がたくさんあった。
ご飯を食べ終わり、親が寝た後、週末の夜、リビングで。
その時々でテーマはバラバラだったけど、僕の人生にとても大切な時間だった。
夜中2時くらいまで話すのは日常茶飯事だったなぁ。
まだミニチュアダックスのぷぅが生きてた頃だ。膝の上で撫でながらってことが多かったけど、実は「早く寝かせてよ。」なんて思ってたのかも。
サラサラした毛並みの感触。痩せてたから骨張っててさ。
秘密基地っていうか…「世界中でここでだけは本音の本音、素の自分で居られる。」
そんな透明な空気だったこと、鮮明に思い出すような。
ちょっとノスタルジックで、でもすごく新鮮味のある食事会になった。
「この異常気象。もうすぐ地球が終わると思わない?なんとなく不安で生きてるんだよね、最近…」
姉ちゃんがこんなことを言い出したのは、店を出て終電迫るタイミングだった。
つくづくアーティストだなぁと思う。でも、その極高した感性を、僕は信頼している。
「そっかー…そんな風には思ってなかったな。あ、そろそろ、帰らないと。」
「うん。そうだね。」
「じゃあ・・・また。」
後ろ髪を引かれながら、最後に落とされた爆弾について考えながら駅に向かって歩く。
終電には間に合った。
そりゃあ、誰でも大なり小なり、何かしらの不安を抱えながら生きてるんじゃないかな。
そう思いついて、スマホをポケットから取り出す。
「命ある限り、生きていくしかないですよ。」
「うん、そうだね。」
「これ、読んでほしい。自分で言うのもなんだけど、読んでて泣きそうになる文章。」
と、東日本大震災のことを書いた文章を送る。
“「命を燃やして生きなければならない。」
これは、使命だ。何のハンデもなく生かされた、僕の使命なんだ。”
「2回目読んだら涙がとまらなくなっちゃって、電車なのに困った。(笑)」
「ありがとう、ありがとう。これがここまで伝わるのは姉ちゃんにだけだよ。今日は話せてよかった。」
「ありがとう。私たち姉弟でよかったね。」