塾長鍼灸師のあたまの中。

ここだけの話。

腰痛の患者

 「次の方、どうぞ。今日はどうされましたか?」


僕は、開業して2年目の鍼灸師
今日も患者さんを少しでも元気にできたらいいな。


 「5日前から腰が痛くて痛くて…ぎっくり腰に似た感じなんですが、ハッキリしたきっかけ無く、一日の内に段々動けなくなっていったんです。『これはヤバい…』って感じで。
それからこの5日間ずっと寝込んでいて、やっと少しだけ立ったり歩いたり出来るようになってきたのですが、今度は自分が嫌になってきて…
普段からずっと忙しくしているのですが、それ自体はストレスじゃないんです。ただ、公私ともに、色んな期待を背負っていたんだなぁと自覚しました。」


「色んな期待とはどんなものですか?」


「そうですね… 例えば、会社の忘年会とか、自分が中心で企画したイベントとか、この5日間、色んな予定をキャンセルせざるを得なかったんです。そんな自分がスゴく嫌で…」


「普段から、かなり精力的に動かれているんですね。」


「それが僕の良さ、だと思ってるくらいですから。」


「素晴らしいですね。でも、過ぎていく予定が気になったり、調整しなきゃいけなかったりで、あまり気が休まらなかったんじゃないですか?」


「そうなんです!身体はベッドに寝ているのに、心はどこか飛んでいきそうな感じで…本当は、あまり考え事とかで頭を使うのは良くないってゆーのも知っているんですが…」


「なるほど、自分の身体よりもイベントなどのことを気にかける。とても責任感が強いですね。『色んな期待を背負っている』の意味が段々わかってきました。でも、実際に出来ることは限りなく少ない。そのギャップが苦しかった、と?」


「そうですね…一応、イベントラッシュの時期は過ぎて、それと共に自分の身体も少し楽になってきたんですけど、次は未来が心配になってきて…今は年末年始だからまだ何とかなったけど、このまま腰痛で動けなかったら、僕はどうなっちゃうんだろうって、本当に不安で仕方ないんです…」


「なるほど…大体の状況はわかりました。次は、少し身体を診ながらお話伺いますね。  仰向けに寝ていただけますか?

うーん…やはり、ストレスが強く身体に出てますね。お通じはありますか?」


「いや、結構便秘気味です… 出てもおならばかりで…」


「うーん。あと、食欲はありますか?」


「いえ、あまりないです。一日中動いてないので、空かないのかなぁと思って。昨日は昼に野菜のスープ、夜は炒め物を少しだけ。」


「なるほど…胃腸が疲れているようですが、腰痛が強くなる前は、どんな食生活でしたか?」


「あぁ…普段から、食事には気を付けているつもりではあるのですが、実はちょっと忙しい日が2週間近く続いてて、家でまともに食事を取ってなかったなって…コンビニとか、パンとか、良くてラーメン屋…『これはダメだよなー…』と思っていたのを思い出しました。」


「本当に忙しくされていたんですね。座っている姿勢は多い?」


「あー、かなり。パソコン作業とか勉強とか、机に向かうことが多いのと、あと、車移動がかなり多いです。」


「そうですか…大体、治療するポイント決まったので、今から鍼とお灸、していきますね。」


「よろしくお願いします。」



「さぁ、治療は終わりました。立ってみてください。痛みはどうですか?」


「おっ!すごい。まだ全快ではないですけど、ほとんど痛みが取れました!!」


「気分の方はいかがです?」


「いやー、前向きになれている気がします!すぐに仕事に取りかからないと。あれとこれと…あの人に連絡しやきゃな…」


「ちょ、ちょっと待って下さい!その調子だと、また再発しますよ!少し、落ち着いて。」


「いやー、ついつい。」


「身体の不調は、何かのメッセージ。あなたの生活や、考え方、人生の優先順位など、何かバージョンアップが必要なのかもしれません。再発防止のためにもね。」


「そうですか…でも、今の自分のことは、案外気に入ってますよ?」


「その『今の自分』というのは、『元気に精力的に他人の為にでもバリバリ動けている自分』ではないですか?」


「あぁ… 確かにそうです。」


「それが証拠に、来院された時は『自分が嫌になって…』とおっしゃられていましたよね。逆に、何があなたの原動力になっていると感じられますか?」


「うーん…難しい質問ですが…何でしょう。あ、でも、人の役に立ちたい、とはよく思います。あとは…」


「あとは?」


「認められたい、って想いも強いかもしれません。」


「なるほど。人からの評価…つまり、先程の『気に入っている自分』とは、『人からの評価に値すると"思える"自分』と言い換えられそうですね。」


「確かに…そうか…」


「改めて、どう感じられますか?」


「なんか、脆い感じがしますね…こう…他人の目を気にして、女々しいというか…」


「そうかもしれませんね…」


「もっとこう…深く…自分で自分を認められたらいいのかな…」


「まるごと自分を愛する。というのはどうでしょう?」


「あぁ…愛せてない自分がいたのか…」


「いつだってあなたは、あなたの身体は、自分のために働き続けたはず。最善を尽くし続けてきたはずです。その瞬間瞬間のベストを。」


「そうですよね…」


「痛みは悪者じゃない。もちろん、今痛みを出している腰すらも。」


「…」


「現実に起きた事実には、初め意味はありません。ただ、後から人間が良い悪いと解釈をつけるだけです。脆さを克服するためには、一つの事実に対して解釈に幅を持てるかどうかが大切だと思います。」


「…」


「起こってしまった事実は変えられない。だけども、それに対する解釈は、後からでもいくらでも変えられるはずだ。そうすれば、しなやかに生きることができる。そう思いませんか?」