それは朝から始まった。いや、実を言うと、この時から始まっていたのかもしれない。
腰にかすかな違和感。起きた時に「あぁ、これはやっちまったかも。」と思った。
今日は3連休最終日。篠山市内のサービスエリアで、Micro Cafe Sasayamaのコーヒーマスター3日目で、今日が終われば、ソッコー帰り、明日のテストの準備をする予定だった。
確かに、疲れが抜け切れていない感じもあった。
ただ、最高潮にしんどかった土曜日を乗り切って、日曜日すごく楽に1日が過ぎたから「このままカフェは乗り切れるな。」と、自信があった。
そんな1日のスタートであったが、開店までの時間がせまる。仕入れもしなきゃいけない。 重い腰を上げて、準備をして、店を開けた。
明らかな異変が起きたのは、昼頃だった。腰に強烈な違和感があり、だんだん立っているのがつらくなってきた。
3連休というのもあって、午前中はコーヒーがよく売れた。だからできるだけ休憩は挟みたくなかったが、とりあえず、目の前にあった椅子に座る。
その直後、ダラダラと変な汗をかき始め、「これ以上ここにいたら、お客さんの前で倒れることになる」と、とっさに従業員用の通路に向かう。
しかし、腰は、僕がはけるのを待ってくれない。
向かう道は数十m。その間に攣るような感覚で腰回りの筋肉、特に背筋が硬く収縮し始め、痛みにうまく歩けなくなる。
気力だけで足を前に進め、なんとか従業員用通路にたどり着いた瞬間、ゆっくりその場に倒れ込んだ。
身体は動かなくても、頭はよく働く。
「こんなところに倒れてどう思われる?迷惑をかけたくない。」「レジなどはどうなるんだ。看板もまだ下げていない。」「喉が渇いた。けどどうしようもない。」
本当は車まで戻って休憩しようとしていたが、ある意味通路に倒れたことは不幸中の幸いだった。
サービスエリアの従業員さんに倒れているところを発見され、営業中止の手配、氷で患部を冷やす、動けない僕を載せて台車で車まで運んでもらう、など、あらゆる手助けを得ることができた。迷惑をかけたサービスエリアさんには、本当に申し訳なかった。
車内には、板が敷いてあり、なんとか仰向けに寝転がれるスペースがあった。
横になってただただその時を凌ぐことしかできなかった。
頭と指だけは動いたので、撤収のお願いをと、仲間に連絡。
症状の緊急回避をと、整体師さんに連絡。
先に到着したのは整体師さん。
あらゆる方向からのストレッチで、突発的に起きていた痛みが、徐々に和らいでくる。
「本当に痛いのか、怖がって緊張しているだけなのか。身体の声をしっかり聞くこと。」と何度も言われながらストレッチ。
これまで何度かぎっくり腰をしたことがあったので、頭では原理がわかっていたのだが、ここまで酷い症状になってしまったのはなんでだろう…健康のプロになろうとしているのに、本当に情けない…情けない…冷静になるにつれて、気が滅入ってきた。
正確な時間はわからないけど、格闘して3時間くらいだろうか。なんとか座れるくらいまでになってきた。
だけど、雷が鳴り始め、雨がぽつぽつ降り出した。
これ以上降り出したら、片付けが大変なことになるし、やっとの想いで、到着していた仲間に片付けを始めてもらった。大雨になってきた。
なんとか片付けを終え、動けない自分の代わりに謝りにまで行ってもらい、サービスエリアを後にする準備ができた。
「症状改善しようにも、ここじゃ環境悪いから、うちの院にきて続きしようか。」
気力で院まで移動。施術ベッドに仰向けになり、これで一安心。
かと思いきや、本当の闘いは、ここからだった。
院に来てわかったのは、症状の輪郭。
動きの中で、ある臨界点を超えると、腰の筋肉が攣るように収縮し、激しく痛むようだ。ストレッチを重ねても、ある所から一向に改善しない。
これは、いわゆる「ぎっくり腰」なのだろうか?今回の発症時、特に大きな引き金はなく、徐々に動きが固まっていった感じだった。「相当長きに渡り、疲れが蓄積した結果だろう。」との分析であった。
既に時間は21時を回っていた。座ることも立つこともまともにできていなかった。
「行き詰っている感じもあるし、さすがにこのまま付き合わせ続けるのは申し訳ない」と、近くの総合病院に勤める友達に電話。
夜間外来はやっているらしい、との情報を掴み、病院へ電話。整形外科の医師がいるようだ。
整体師さんと言い、友達に医療関係者がいて、本当に良かった、と心から思う。
一人で行くことなど到底不可能だったので、整体師さんに病院まで送迎してもらう。最後の最後まで迷惑をかけてしまった。。。
窓口で待っていた看護師さんに導かれ、車いすに乗って院内へ。
簡単な問診を受け、書類を書き、レントゲンまで撮って、「今夜どうするんや」という話に。
家に帰ることなど全く考えられなかったので、人生初の入院を決断。
親に電話。とりあえずの状況を伝え、入院病棟のベッドの上に到着。
何階にいるのか。病室に、他に誰が寝ているのか。明日のテストはどうなるのか。いろんな人に連絡をとらなければ。でもケータイの充電が切れそうで、充電器もない。
何もかもわからず、とてつもなく不安だったが、痛み止めを含有した点滴を打たれ、何とか眠ることができた。